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9月の新刊

終の住処 磯崎憲一郎 第141回芥川賞受賞作

編集部の一言

静かで陰鬱とした作品である、がこれは褒め言葉だ。ひたすらに淡々と、平坦な文章で、残酷なまでの分析をもって描写される主人公の結婚生活。そこには夢も希望も、改善を求める意欲も、変化を起こそうという行動も、能動的なものは何一つない。徹底的に受け身で、不可能なほどにコミュニケーションが欠落している。ただ事態の流れの中に身を委ねるだけのその様子は、一見とても見苦しく醜いものに映り、読者に不快感を与える。なぜなら、人生は築くものではない、被るものだ、という運命主義は、読者の不安をあおり、自分の人生はこうであってほしくない、という拒絶反応を起こさせるからだ。やや不自然な箇所がありながらも三人称で一貫しているのは、その徹底的な受動性を際立たせるためだろう。その不可解なまでの受け身の中で、たった二度だけ、登場人物たちが強い決意を示すのが「観覧車」と「家」であり、その箇所に行き着いた読者は作品に流れる灰色の救われない空気からほんの一瞬解放されるような感覚を覚える。改行のほとんど成されない独特の文体は、最近の日本文学によく見られる傾向ではあるが、同時にあらゆる出来事を冷笑的に分析する描写方法は、アニー・エルノーなどの現代フランス文学に近いように思う。「あきらめ」を見事なまでに描ききった作品であり、諦観に徹した人間の不気味さと怖さを見せつけてくれる。(み)


貸し出しのご予約は図書館まで。


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